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第53話 重ならない真実

Author: marimo
last update Petsa ng paglalathala: 2026-03-10 20:22:46

昼下がりの街は、穏やかだった。

 綾乃は、マンションのエントランスで一度だけ深呼吸をしてから、足を踏み出す。

「無理に誘ったなら、ごめん」

 そう言った和真の声は、相変わらず柔らかい。

 カジュアルな服装。手ぶら。

 “何も企んでいない”ように見える振る舞い。

「……いえ」

 綾乃は、首を横に振った。

「少し、外の空気を吸いたいと思っていたところだったから」

 和真は、ほっとしたように笑う。

「じゃあ、軽くランチでも。 静かな店、知ってるんだ」

 その言葉に、警戒心よりも先に、安堵が胸に広がる自分に、綾乃は気づいていた。

 ――誰かと、普通に過ごす。

 それだけのことが、こんなにも久しぶりだなんて。

 店は、川沿いの小さなレストランだった。

 窓際の席。

 人目も少なく、騒がしくもない。

「ここ、よく来るの?」

 綾乃が尋ねると、

「一人のときにね」

 和真は肩をすくめる。

「考え事したいときとか」

 それ以上、踏み込まない。

 聞き出そうともしない。

 料理が運ばれ、会話は途切れがちになる。

 だが、その沈黙が、不思議と苦ではなかった。

「……玲司は」

 綾乃が、ぽつりと言う。

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